2024年2月22日
多様な正社員とは?
新型コロナウイルス感染症により、以前と比べると大きく変わった価値観。働き方や仕事についての価値観はその最たる例でしょう。ポストコロナの社会では、個人が自由度の高い働き方や暮らしを通じて生産性を高め、豊かさや仕事のやりがいを感じられるようにしていくことが求められています。働き方も、働く人すべてがそれぞれのワーク・ライフ・バランスを追求しながら自ら望むスタイルで労働することが求められており、その一つの例として挙げられるのが、多様な正社員制度です。多様な正社員を認めることで、企業に優秀な人材が集まり、組織の成長にもつなげることができるとされています。
そこで、今回は「多様な正社員の基礎知識とメリット・デメリット」についてご説明いたします。
【テーマ① 多様な正社員とは?】
2019年6月に安倍内閣によって閣議決定された『規制改革実施計画』。この計画の中に“多様な正社員”の雇用ルールについて盛り込まれました。多様な正社員と聞くと、「具体的にどのような制度なのだろう?」と思ってしまいますよね。そこでテーマ①では、知っておくと役立つ“多様な正社員”についての基礎知識をご説明いたします。
1 多様な正社員とは
一般的に、正社員というと、①労働契約の期間の定めがない、②所定労働時間がフルタイムである、③直接雇用である者を指します。勤務地、職務、勤務時間がいずれも限定されていません。
対して、多様な正社員とは、いわゆる正社員と比べ、配置転換や転勤、仕事内容や勤務時間などの範囲が限定されている正社員のことをいいます。このことから、限定正社員とも呼ばれています。
国としては、この多様な正社員の普及・拡大を図っていきたいという考えがあり、平成26年7月30 日に労使等関係者が参照することができる「雇用管理上の留意事項」を公表。平成27年度には「多様な正社員」及び労働契約法に定める「無期転換ルール」について、企業での制度導入支援を支援するツールとして「多様な正社員」及び「無期転換ルール」に関するモデル就業規則(飲食業・小売業)を作成しました。そして、本年の令和5年4月改正にて、労働条件の明示ルールに新たな4項目が追加されることとなり、多様な正社員制度を円滑に導入、運用するための法整備が着々となされている状況があります。
2 多様な正社員の主な3ケース
上述のとおり、いわゆる正社員は「勤務地、職務、勤務時間がいずれも限定されていない」とご説明いたしましたが、多様な正社員は「勤務地、職務、勤務時間が限定」されており、ケースとしては主に以下の3つがあります。
①【勤務地】限定正社員:転勤するエリアが限定されていたり、転居を伴う転勤がなかったり、あるいは転勤が一切ない正社員。「地元に定着して働きたい」と考える社員にとって都合がよい。医療、福祉、保険、小売業などで採用される傾向にある。
②【職務】限定正社員:担当する職務内容や仕事の範囲が他の業務と明確に区別され、限定されている正社員。「特定の業務を専門とするプロフェッショナル人材を雇用したい」という企業にとって有効。職務や資格で業務をわけやすい医療、福祉、教育業界などで採用される傾向にある。
③【勤務時間】限定正社員:所定労働時間がフルタイムではない、あるいは残業が免除されている正社員。「育児や介護を理由に離職する正社員がいる」「長時間労働等が困難といった理由で離職する社員がいる」企業にとって有効。
3 多様な正社員の具体例
次に、多様な正社員の具体例をご紹介します。
・全国転勤のない営業職(上記①)
・限定された店舗で働く販売スタッフ(上記①)
・ディーラーなど、特定の職務のスペシャリスト(上記②)
・短時間勤務(1日6時間程度)の事務職(上記③)
なお、多様な正社員のケースは、勤務地、職務、勤務時間といった限定の内容を組み合わせることで、企業の実情に応じたバリエーションが広がります。例えば、勤務時間×職務といったように、勤務時間が限定され、かつ職種も限定されている短時間正社員といったケースもあり得るということになります。
【テーマ② 多様な正社員のメリット・デメリット】
多様な正社員は、正社員と非正規雇用の労働者の間を埋める働き方として注目されています。「優秀な人材を確保するため」「従業員の定着を図るため」「仕事と育児や介護の両立(ワーク・ライフ・バランス)支援のため」等の理由から、現在、多様な正社員を導入・運用している企業は約5割に達しており、多様な正社員制度は企業側・社員側双方にとってメリットの多い制度となっています。そこで、次のテーマ②では、多様な正社員のメリット・デメリットを企業側・社員側の双方の観点からご説明いたします。
1 企業側のメリット
企業側のメリットとしては、次の4点が挙げられます。
メリット①:優秀な人材の確保・定着
メリット②:多様な人材の活用
メリット③:技能の蓄積・承継
メリット④:地域に根差した事業展開
家庭の事情などにより転勤やフルタイム勤務が困難なため、仕事を辞めざるを得ない社員の離職を防止することができます。勤務地や勤務時間が限定された多様な正社員を、無期転換後の受け皿とすることで、労働力の安定的な確保を図り、さまざまな人材の活用を促すこともできるでしょう。また、ベテランの非正規雇用社員を多様な正社員とすることで、スキルやノウハウの蓄積・承継にもつながります。
2 企業側のデメリット
次に、企業側のデメリットですが、次の2点が挙げられます。
デメリット①:人事労務管理が複雑化する
デメリット②:業務内容や処遇のバランスをとるのが難しい
社員ごとに、勤務地、職務、勤務時間などの内容を限定していくことになるため、きめ細かい制度設計が必要となります。人によって労働条件が異なってくることから、勤怠や給与計算、社会保険などの人事労務管理が複雑化することが予想されます。また、いわゆる正社員と多様な正社員との双方に不公平感を与えず、モチベーションを維持するためにも、業務内容や処遇のバランスをとっていく必要もあります。
3 社員側のメリット
社員側のメリットとしては、次の4点が挙げられます。
メリット①:ワーク・ライフ・バランスの実現
メリット②:雇用の安定・処遇の改善
メリット③:キャリア形成
メリット④:キャリア・アップの実現
育児・介護等の事情により転勤やフルタイム勤務が困難な者などの就業の継続、能力の発揮が可能となります。仕事と家庭の両立をしやすくなるのが大きなメリットと言えるでしょう。また、多様な正社員は基本的に無期雇用が原則です。安定した雇用のもと中長期的なキャリア形成や、特定分野のスペシャリストとしてキャリア・アップも可能となります。
4 社員側のデメリット
社員にとってもメリットが大きい多様な正社員制度ですが、デメリットとしては、次の点が挙げられます。
デメリット①:事業所が閉鎖された、職務が廃止された場合に解雇の可能性がある
デメリット②:転勤がない分、いわゆる正社員より給与が低い場合がある
事業所の閉鎖や職務の廃止の場合、直ちに解雇が有効となるものではありませんが、これらのケースが起これば職場・仕事がなくなってしまうため、整理解雇の必要性は肯定されることとなります。また、全国転勤がない分、いわゆる正社員より給与が低い(収入が低い)ということもありえます。
以上、多様な正社員のメリット・デメリットについてご説明いたしました。デメリットと比べてみて、メリットのほうが大きいと感じる企業さまも多くいるのではないでしょうか。企業にとっては優秀な人材の確保・定着、多様な人材の活用などにつながり、昨今の人手不足問題を打破する一手となるでしょう。
編集者:井上晴司
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