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2024年10月7日

令和7年4月改正!中小企業の改正育児・介護休業法への対応―育児編―

来年の2025年4月に「育児介護休業法」および「次世代育成支援対策推進法」、「雇用保険法」が改正されます。それに伴い、中小企業も制度変更や社内整備、社員へのヒアリングなどの対応が必要です。改正までしばらくありますが、今のうちからしっかり内容を把握した上で、改正に備えておきましょう。

テーマ1 育児・介護休業法(育児分野)の現状

「育児・介護休業法」の前身は、1991年に成立、1992年4月から施行された「育児休業等に関する法律(育児休業法)」です。男女問わずすべての労働者が、子が1歳になるまで“育児休業”を取得できることが定められた画期的なものでした。3年後の1995年に“介護休業”の制度が盛り込まれ、現在の名称である「育児・介護休業法」となりました。その後も、時代の変遷とともにたびたび改正され、直近では、“産後パパ育休”の創設、育児休業の分割取得などが盛り込まれた2022年改正があり、企業の皆さまにおかれましては法改正の対応をされていることと思います。そこでテーマ①では、育児・介護休業法(育児分野)の現状についてご説明いたします。

■ 育児のため”の主な制度

まず初めに、権利や措置義務として行われている“育児のため”の主な制度について再確認してみましょう。

【育児休業】育児のために仕事を休める制度

【短時間勤務制度】短時間勤務(1日原則6時間)ができる制度

【所定外労働の制限】残業が免除される制度

【子の看護休暇】子どもの病気の看護などのために仕事を休める制度

【時間外労働の制限】残業時間に一定の制限を設ける制度(24時間/月、150時間/年を超える時間外労働を禁止)

【深夜業の制限】深夜(午後10時から午前5時)の就労を制限する制度

育児と仕事を両立するために、上記のような両立を支援する制度=「両立支援制度」がすでに存在しています。しかしながら、男女間で育児休業の取得率に大きな差があったり、「両立の難しさで辞めた」という女性がいまだ4割超いることから、仕事と育児をより両立できるような社会の実現という国の方針のもと、育児のための「両立支援制度」が拡充されている流れがあります。

■男女の育児休業取得率の推移

育児休業取得率は、女性については近年8割台で推移している一方で、男性は上昇傾向にあるものの、女性に比べて低水準となっています。令和4年度雇用均等基本調査では、男性は17.13%、女性は80.2%と、実際の育児休業取得率は男女で大きな差があります。また、男性の場合、約8割が育児休業を1か月未満しか取得できていません。くわえて、育児休業制度の利用を希望していたができなかった男性の割合は約4割で、休業を取得したくても希望が叶っていない現状もあります。

■2022年法改正:男性も育休を取得しやすく、男女とも仕事と育児を両立できるように

男性が育児休業を取得しやすく、希望に応じて男女ともに仕事と育児を両立できるような社会を実現するために、2021年に改正法が公布され、2022年4月以降に段階的に施行されています。内容は次のとおりです。

✓研修の実施・相談体制の整備など、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備をする(義務)

✓妊娠・出産の申出をした労働者又は配偶者に対して育児休業制度等の周知をし、制度等を取得するかどうかの意向を確認する(義務)

✓男性の育休取得を促進するための“産後パパ育休”の創設

✓労働者は育児休業を分割して取得できる(2回まで分割可)

✓従業員数1,000人超の企業は、育児休業等の取得状況を年1回公表する(義務)

✓有期雇用労働者の育児休業取得の要件の緩和

現状として、これらの改正に対応されている企業さまが大半かと思われます。ここからさらに一歩踏み込んで
いるのが、2025年4月からの改正となります。次のテーマ②では、2025年4月からの改正点についてご説明いたします。

テーマ2 2025年4月からの改正点

2025年4月からの改正は、2022年改正の「男女ともに仕事と育児を両立できるようにする」というコンセプトは変わらず、さらに一歩踏み込んだ形で、新たな制度が追加されたり、既存の制度に対して対象が拡大されたりするなど、複雑で難解なものになっています。

■2025年法改正:男女とも仕事と育児を両立できるようにするため、子の年齢に応じた“柔軟な働き方”を実現

2025年の法改正で大きく追加されるものとしては、子の年齢に応じた“柔軟な働き方”を実現するための措置となります。下の【図】をご覧ください。

厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正のポイント」より

【施行日:公布後1年6か月以内の政令で定める日】

改正1:子の年齢に応じた“柔軟な働き方”を実現するための措置が事業主の義務に(育介法)

3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者について、子の年齢に応じた“柔軟な働き方”を実現するための措置が事業主の義務になります。柔軟な働き方の具体例としては、“始業時刻等の変更”、“テレワーク等”、“保育施設の設置運営等”、“短時間勤務制度”、“新たな休暇の付与”で、事業主は2以上の制度を選択して実施する必要があります。くわえて、事業主が選択した制度について、該当の労働者へ個別に周知をし、制度を利用するかどうかの意向確認を行うことまでが義務です。労働者は実施されている制度の中から1つを利用することができます。

改正2:仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主の義務に(育介法)

2022年法改正では、妊娠・出産の申出をした労働者又は配偶者に対して“育児休業制度等”の周知をし、制度等を取得するかどうかの意向を確認することが義務化されました。今回の改正では一歩踏み込んだ形で、“仕事と育児の両立”についても、妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、個別の意向聴取・配慮が事業主に義務付けられます。具体的な配慮の例としては、自社の状況に応じて、勤務時間帯・勤務地にかかる配置、業務量の調整、両立支援制度の利用期間等の見直し、労働条件の見直し等が考えられています。なお、改正1・2ともに、詳細が未確定の部分があり、今後、省令等が出される予定です。

【2025年4月1日施行】

改正3:所定外労働の制限(残業免除)の対象が拡大(育介法)

現行では、“3歳に満たない子”を養育する労働者について、請求すれば、所定外労働の制限(残業免除)を受けることができます。2025年4月以降は、その対象が拡大され、“小学校就学前の子”を養育する労働者も請求できるようになります。

改正4:育児のためのテレワークの導入が努力義務化(育介法)

“3歳に満たない子”を養育する労働者が、“テレワーク”を選択できるように、制度を導入することが事業主の努力義務となります。

改正5:子の看護休暇が見直し(育介法)

現行では、“小学校就学の始期に達するまでの子”を対象に、病気・けが、予防接種・健康診断を事由に「子の看護休暇」を取得できます。2025年4月以降は、対象となる子の範囲が“小学校3年生”まで延長されます。取得事由についても、感染症に伴う学級閉鎖等や入園(入学)式、卒園式が追加されることから、名称が「子の看護等休暇」と変更になります。なお、労使協定の締結により除外できる労働者に、“勤続6か月未満の労働者”の仕組みが撤廃されますのでご注意ください。

改正6:育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大(育介法)

現行では、従業員数1,000人超の企業について、育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務化されています。2025年4月以降は、“従業員数300人超”の企業に拡大されます。改正後も中小企業は対象ではありませんが、これまでの経緯を見ると、対象範囲を拡大している流れがありますので、将来的に公表義務が課される可能性もあります。

改正7:育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定の義務付け(次世代法)

“従業員数100人超”の企業について、「一般事業主行動計画」を策定時に、育児休業取得状況や労働時間の状況把握等(PDCAサイクルの実施)、数値目標の設定が義務付けられます。なお、従業員数100人以下の企業は、努力義務の対象です。

改正8:「出生後休業支援給付」の創設(雇用保険法)

子の出生直後の一定期間に男女で育休を取得することを促進(共働き・共育ての推進)するために、「出生後休業支援給付」が創設されます。男女両方が14日以上の育休を取得する場合に、被保険者の休業期間について28日間を限度に、休業開始前賃金の13%相当額が支給されます。育休給付の手取りが実質10割相当になります。なお、配偶者が専業主婦(夫)の場合や、ひとり親家庭の場合などには、配偶者の育児休業の取得がなくても、給付が支給されることとなります。

改正9:「育児時短就業給付」の創設(雇用保険法)

時短勤務時の新たな給付として、「育児時短就業給付」も創設されます。“2歳未満の子”を養育するために、時短勤務をしている場合、時短勤務中に支払われた賃金額の10%が支給されます。

テーマ3 中小企業が今準備できること

テーマ2でご説明した改正1(柔軟な働き方を実現するための措置)、2(両立に関する個別の意向聴取・配慮)は施行が公布後1年6か月以内の政令で定める日(2025年10月施行予定)となっており、詳細がまだ出ていないところもあります。国から正式な情報がリリースされ次第、その部分の就業規則・労使協定等は改定することとし、テーマ3では、今の段階で準備できることについてご説明いたします。

■今準備できること

今準備できることは次の4つとなります。

①「両立支援制度」及び改正内容をしっかり把握する

②「両立支援制度」対象社員を把握する

③“柔軟な働き方”を実現するための措置等、どの制度を導入するか検討する

④2025年4月改正分について、就業規則、労使協定、社内文書への影響範囲を探る

以下より詳しく解説します。

①「両立支援制度」及び改正内容をしっかり把握する

妊娠・出産・育児期の両立支援制度は、複数の法律にまたがって存在しています。すべての内容を把握するだけでも多大な労力を要します。“措置が義務なのか、努力義務なのか”、“いつからなのか”、“対象者は誰なのか”という点もあります。テーマ2で掲載した【図】がとてもわかりやすい表となっているため、まずはこの図で、両立支援制度の全体像や改正内容、時期をつかむようにしましょう。

②「両立支援制度」対象社員を把握する

次に行いたいのが、「両立支援制度」の対象社員を把握することです。把握にあたって注意しておきたいポイントとしては、社員が養育する子どもの年齢(生年月日)をしっかり把握しておくこととなります。なぜなら、子どもの年齢によって活用できる制度が異なり、個別周知・意向確認、面談等の必要が出てくるからです。「子の看護等休暇」までの対象者を把握しておきたいため、小学校3年生まで(※)の子どもをもつ社員を必要によってはリスト化することをお勧めします。

(※)2025年4月以降は、「就学前の子」→「小学校3年生までの子」に延長されます。

③“柔軟な働き方”を実現するための措置等、どの制度を導入するか検討する

テーマ2でご説明した“柔軟な働き方”を実現するための措置等は2025年10月施行予定で、実施についてはまだ先です。しかし、先を見据えて、会社として5つの制度の中からどの制度を2つ以上取り入れるか、社内事情にあわせて検討しましょう。

④2025年4月改正分について就業規則、労使協定、社内文書への影響範囲を探る

2025年4月改正分を反映させるために、就業規則、育児・介護休業規程の改定、労使協定の締結をする必要が出てきます。遅くとも2025年3月中には改定しなければならないため、どの部分の改定が必要なのか洗い出しをしておくことをお勧めします。就業規則の改定にあたっては、意見聴取手続き、労働基準監督署への届出、社内周知期間が必要なため、余裕をもってスケジュールを組みましょう。同様に、社内人事システムの対応が必要かも確認しておきましょう。なお、作成済の「個別周知・意向確認」の社内文書についても改定が必要です。新設される「出生後休業支援給付」についても、労働者から妊娠または出産等についての申出があった場合、現行の育児休業給付にくわえて出生後休業支援給付に関する事項(給付金の支給要件等)も個別に周知し、育児休業の取得の有無や日数についてサポートすることが求められます。

以上、中小企業が今の段階で準備できることについてご説明いたしました。2025年の改正内容は多岐に渡っており、新たな制度を整備したり、両立支援制度を利用とする社員への対応を行ったりなど、人事労務担当者にとっても大きな影響があります。漏れなく実行していくためにも、今のうちから早めに検討・対応していきましょう。

 

 

 

井上晴司

編集者:井上晴司

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