2025年2月25日
入社・契約更新で労働契約を結ぶときのポイント 1
3月、4月は入社・契約更新などで新しく労働契約を結ぶことが多くなる季節です。「転勤があるなんて聞いていない!」「給料が事前に提示されていた額より約5万円低い」「聞いていた仕事とは違う仕事をさせられた」など、就職活動や転職活動において入社前に提示されていた条件・待遇と実態が異なるといった話題がSNS等で飛び交うのもこの時期に増えます。SNSでそういった情報が拡散されてしまうと、企業にとってはブランドイメージの低下、信用の失墜など大きなダメージとなり、くれぐれも注意したいところでしょう。こういった労働契約トラブルを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。そこで今回は、昨年4月改正の労働条件明示のルールをふまえながら、入社・契約更新で労働契約を結ぶときのポイントについてご説明いたします。
・・・テーマ1 労働契約を結ぶときの基本・・・
労働契約上の取り決め(約束、ルール)は、原則的には契約当事者である労働者と使用者との間の“合意”によって行われます。しかしながら、“労働者の労務提供義務”や“使用者の指揮命令権”などの基本的な権利義務を除き、必ずしも明確に合意されているわけではなく、また、お互いの“合意”があればどんな内容の労働契約を結んでも良いというわけでもありません。実際に、その多くは就業規則にもとづき集団的に決まることが多く、その就業規則においてもすべての事項が定められているわけではないため、その適用をめぐり労使トラブルが起こることもしばしばあります。そこでテーマ1では、はじめに「労働契約を結ぶときの基本」をご説明いたします。
■「労働契約」を結ぶとはどういうことか
労働契約とは、労働者と使用者が対等の立場で“労働条件”について合意して締結する契約のことをいいます。「労働契約」と似た言葉に「雇用契約」がありますが、「雇用契約」は民法上で定められた使用者と労働者の契約のことをいい、「労働契約」は労働に関する法令で使用される言葉となり、意味としてはほとんど同じです。
労働契約を結ぶことで、「労働者が相手方(会社)の事業に使用されて労働し、相手方が労働者に対して賃金を支払う」ことになります。つまり、労働者は会社に対して労務を提供する義務を負い、その対価として賃金が支払われるということになります。
■「労働契約」が成立するには?
「労働契約」は、使用者の「雇います」、労働者の「雇われます」といった合意のうえ、口頭で成立させることも可能で、書面で契約を交わさなくても成立するとされています(民法第522条2項)。しかしながら、労基法第15条において、賃金や労働時間、就業場所など重要な労働条件については明示義務があり、一定の事項については書面による交付が義務付けられています)。
【書面で必ず明示する必要のある労働条件】
①労働契約の期間
②有期労働契約を更新する場合の基準、更新上限の有無と内容
③就業の場所・従事する業務の内容、就業場所・業務の変更の範囲
④始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
⑤賃金(退職手当・賞与等を除く)の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期並びに昇給に関する事項
⑥(パートタイム、有期契約労働者のみ)昇給・賞与・退職金の有無・相談窓口(担当者名、役職、担当部署など)の事項
⑦退職に関する事項(解雇の事由を含む)
⑧(無期転換ルールが適用できる場合)無期転換申込の機会とその労働条件
【定めがある場合に明示する必要のある労働条件】
⑨退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払の時期に関する事項
⑩臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与、最低賃金額に関する事項
⑪労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
⑫安全・衛生に関する事項
⑬職業訓練に関する事項
⑭災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑮表彰、制裁に関する事項
⑯休職に関する事項
2024年4月改正で、書面で必ず明示する必要のある労働条件(すべての労働者に適用)に加えられたのが、③「就業場所・業務の変更の範囲」です。これをしっかり明示することによって、「転勤があるなんて聞いていない!」「聞いていた仕事と違う仕事をさせられた」などといったトラブルを避けられるでしょう。なお、②、⑥、⑧については有期契約労働者などに関連してくるものとなり、次回テーマ2で詳しく解説しますので、ここでは省略します。
■「労働条件通知書」だけ作成して交付すればいいの?
労働条件について記載した書類として「労働条件通知書」がありますが、労働条件通知書だけ作成して交付すればよいかという問いについては「NO」となります。労働条件通知書は、使用者から一方的に労働者に通知されるものなので、労使間で何かトラブルが起きたら、労使双方がその内容に合意していたという証拠にならないからです。したがって、労働条件通知書だけでなく、双方が合意したことの証となる「雇用契約書(※)」も作成するのがベターです。実際には、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」といったように2つを兼ねた書類を作成するのが良いでしょう。
(※)使用者が「雇用契約書」を作成すること自体は法律において義務付けられているわけではありませんが、労働者が誤解しがちな複雑な労働条件がある場合、作成しておくことでトラブル予防となります。なお、「雇用契約書」には、使用者と労働者が労働契約の内容について合意した証として署名捺印をするため、使用者と労働者双方の「署名捺印」欄が必須です。

編集者:井上晴司
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